浅い湖沼である宮城県伊豆沼において、メタン由来の底生生物食物連鎖への寄与を検討するために、メタン濃度、メタン酸化細菌群集構造、底生生物の炭素・窒素安定同位体比の季節変化を明らかにすることを目的にしている。 1. 堆積物のコアーを採集して、深さ別に堆積物中のメタンをヘッドスペース法によって気相に追い出して、ガスクロマトグラフィーによってメタン濃度を測定した。堆積物中の深さ10〜21cmの層では、一年中高いメタン濃度を維持したのに対して、深さ5〜6cmの層では、7月から秋にかけて濃度が高くなるが、そのほかの季節は低い濃度であった。また、堆積物表層ではほとんどメタンは検出されなかった。 2. 堆積物中より環境DNAを抽出し、メタン酸化細菌のメタンモノオキシダーゼ遺伝子をターゲットにしてPCR増幅を行い、これを変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法によってメタン酸化細菌の群集構造解析を行った結果、堆積物の深さや季節による群集構造の違いはほとんど見られなかった。 3. 採集したオオユスリカ幼虫の炭素・窒素安定同位体比を測定した結果、夏から秋にかけて炭素安定同位体比の値に個体間で大きなばらつきがみられ、メタン酸化細菌を主に餌としていると考えられる非常に低い値の個体も出現した。 4. オオユスリカ幼虫の炭素安定同位体比に低い値が見られる月は、オオユスリカ幼虫の巣穴が存在する深さ5-6cmの層のメタン濃度が高かくなる傾向がみられた。以上より、成層しない浅い富栄養湖では、ユスリカの巣穴が存在する層にメタンの供給が多くなると、メタン細菌群集は変化しないものの、巣穴周辺の細菌現存量が増えることにより、メタン食物連鎖の寄与が大きくなることが示唆された。
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