浅い湖沼である宮城県伊豆沼において、メタン由来の底生生物食物連鎖への寄与を検討するために、メタン濃度、メタン酸化細菌群集構造、底生生物のオオユスリカの炭素安定同位体比の季節変化を明らかにすることを目的にしている。 堆積物中よりオオユスリカ幼虫を採集して炭素安定同位体比を測定した結果、ユスリカ幼虫の炭素安定同位体比は堆積物や粒状有機物のそれらと比べると低い値を示し、個体間でばらつきも大きかった。特に、8月や9月ではユスリカ幼虫の炭素安定同位体比は平均で約-40‰のきわめて低い値を示した。堆積物中のメタンをヘッドスペース法によって深度毎に採集して、ガスクロマトグラフィーによってメタン濃度を測定した結果、深さ5~6cmの層のメタン濃度とユスリカの炭素安定同位体比の間に有意な負の相関がみられた。以上より、ユスリカ幼虫の巣穴が存在する層にメタンの供給が多くなると、炭素安定同位体比が低い値を持つメタン酸化細菌が巣穴周辺に増える、ユスリカ幼虫はこれらをエサとしているために、ユスリカ幼虫も低い炭素の安定同位体比を持つことが示唆された。 高メタン条件下においてメタン酸化細菌の群集構造が影響を受けるか実験的に調べるため、ガスタイトなバイアルビンに堆積物を入れ、メタンを注入することによりメタン濃度の異なる培養系を作成した。これらの培養系からメタン酸化細菌のメタンモノオキシダーゼ遺伝子をターゲットにしてPCR増幅を行い、これを変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法によってメタン酸化細菌の群集構造解析を行った結果、高濃度を維持した培養系においてもメタン酸化細菌の群集構造はほとんど変化しなかった。このことから、メタン濃度が高く、ユスリカ幼虫の炭素安定同位体比が低くなる時期は、メタン酸化細菌の種組成が変化するのでなく、現存量が増加することが示唆された。
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