研究概要 |
本研究は,数理生態学の理論,生態モデリングの手法,および,地理情報システム(GIS)の空間情報を融合した生態系管理の新しい方法論を確立することを目的としている.ダム湖(神奈川県内の相模湖・津久井湖)集水域を研究対象として,生態系の多重安定性を予測する生態学理論が,社会生態系モデルのシミュレーションの方針・結果の解釈及び実践的な生態系管理に応用できることを提示する.研究期間内に明らかにする研究内容は下記の2つである. 1.生態学理論である多重安定性とレジリエンスが生態モデリングを介して現実の生態系管理に具体的に適用できることを示す. 2.社会生態モデルをGIS上に展開し,生態学理論から導かれたレジームシフトの時空間ダイナミクスを視覚化し,効果的な生態系管理の手法を提示する. 平成22年度は,上記2つのサブテーマのうち,「1.」については,平成21年度に構成した藍藻類発生メカニズムに関する統合モデル(CCM:comprehensive cyanobacteria model)を参考に生態系管理の実用化に向けて検討を行った.その結果,富栄養化湖沼の修復手法については,生物間相互作用を利用すると双安定性曲線が富栄養側にシフトすることが見出されたことから,富栄養状態においても栄養塩を制御することなく藍藻類を低減できることが示唆された.すなわち,安価で環境負荷の少ない手法で湖沼生態系修復が行える可能性が示された. サブテーマ「2.」に関しては,相模湖・津久井湖の過去20年間の藍藻類の発生状況と水質などの時空間的な相関についてGISによる解析を行った.その結果,両湖沼の藍藻類の発生原因は,特に,窒素については,大気中の窒素酸化物による人為的起源である可能性が大きく示唆された.今後,相模湖・津久井湖の集水域を包含する拡大流域圏の大気中窒素の制御がアオコの低減に効果的であることが示された.
|