研究概要 |
本研究は,魚類では珍しい共同繁殖魚Julidochromis transcriputus(トランス)をモデル生物とし,グループ内での駆け引き,操作,利他行動,およびそれらの意思決定の行動の実態の解明を目指している。昨年度は,主に3つの水槽実験を実施した。第一の研究は かれらの個体識別の実態の把握をテーマとした。その結果,主として視覚により個体認知している事,それは頭部の模様を認知信号としていること,さらにタンガニイカ湖産カワスズメ類の頭部色彩模様の比較から,共同繁殖種で頭部の色彩模様の個体変異が発達しているという興味深い点が示された。 第二には,α♂,β♂をもつトランスの雌は楔型の巣を利用する事で,父性の操作を行っているとの仮説が,一夫一妻のトランス雌との比較からほぼ検証された。二♂をもつ場合,雌はβ♂が受精に参加できる楔型巣でのみ産卵するが,一夫一妻の雌は,楔型巣と平行型巣(αがいると,その攻撃のため,小型β♂はこの巣には滞在できない)に関係なく産卵した。これは雌による♂の受精の操作が実験的にはじめて示された研究である。また,α♂は受精を独占できる平行巣を好むため,雌とα♂とのあいだでは巣場所をめぐる雌雄の対立が生じていることが示された。この雌雄の対立の詳細は今後の研究課題である。 第三には,本種が野外でペア繁殖している場合,雌雄の体長比が1.24かそれに近い値が有意に多いことが生じるメカニズムについて調べたものである。ここでは成長抑制に注目した。様々なサイズの組み合わせの雌雄をペアで4ヶ月飼育した所,サイズ比の大きなペアや小さなペアもいずれも,多くが1.24に収束した。特に実験はじめに雌が大きな組み合わせは,1.24への収束が顕著に認められた。
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