研究課題
集団の分化と遺伝的浮動など過去に生物集団に起こった「歴史的・中立的」な出来事は、その生物集団内の遺伝的変異の大きさに影響を与え、その後の自然選択による進化の方向や速度に影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究では、生物の生活史形質に見られる地理的変異の進化に、その生物種集団に起こった「歴史的・中立的」な出来事が制約としてどの程度の影響を及ぼしているかを、キアゲハを用いて調べた。キアゲハは、休眠世代は春型に、非休眠世代は夏型になるという世代間で体サイズなどの形質が異なる季節多型を示す。この季節多型のパターンには緯度クラインがあることが先行研究によって明らかにされている。また、mtDNAを用いた解析によっても、日本列島のアゲハ集団は津軽海峡を挟んで遺伝的構成に大きな違いがあることが確認されている。そこで本研究では、同緯度で季節環境が同じと考えられる津軽海峡によって分断された北海道と本州の2地点で、キアゲハの季節多型に見られる緯度クラインが不連続になるかを検証した。その結果、この2地点の個体群には反応基準の高さや傾きに違いがみられ、この2地点間で季節多型の示し方に遺伝的な違いがあることがわかった。また、蛹体重についで先行研究のデータと比較すると、大畑は距離が近い釜谷よりも京都に、釜谷は大畑よりも稚内に近い形質を示した。本研究の結果は予測通り、キアゲハの季節型に見られる緯度クラインが、津軽海峡によって不連続になることを示した。この理由は、津軽海峡の形成という歴史的な出来事によって、古い時代から本州と北海道の間で遺伝子流動が分断されてしまったために、遺伝的浮動もしくほ方向に偏りがある遺伝子流動によって、緯度が同じで環境条件が同じと考えられる2地域間でも遺伝的に異なってしまったためと考えられる。
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Journal of Ethology
巻: VOL.29 ページ: 209-213
Applied Entomology and Zoology
巻: VOL.46(印刷中)
Biology Letters
巻: VOL.7 ページ: 257-260