ギンメッキゴミグモに捕食者の翅音をまねた刺激の有無、および餌捕獲経験の有無の二つの操作を組み合わせた2x2要因の実験を行なった。網の総糸量は捕食者刺激と負の相関、餌捕獲経験とは正の相関が見られ、相互作用は見られなかった。このことから、本種は採餌に関する投資量を決定する際に、捕食者と餌の情報を独立に利用している事が示唆された。 また本種は通常、上半分が下半分より大きい網を造るが、捕食者刺激に曝した後は、この上下非対称性の程度が小さい網を造った。このような反応がなぜ生じるのかを確かめるため、造網行動の全シークエンスをビデオ撮影し造網時間と網の非対称性との間の関係を解析したところ、両者には正の相関が見られた。すなわち非対称な網を張るにはより時間がかかっていた。このことから捕食者を認識したクモは捕食の危険が高まる造網時間を短くするため網の形状を変えている事が示唆された。非対称な網を張るためには、横糸の間隔を方向によって変える必要があるが、これに時間がかかると言う事は、クモが造網中の意思決定をリアルタイムで行なっているが、情報処理能力の制約から認知的に負荷のかかる作業を素早くこなせない事、そしてこの事がクモの採餌生態に影響を及ぼしている事を示唆している。 ゴミグモを用いて、餌を待っている時の網の張力を調整する行動に、過去の経験がどのような影響を与えているかを調べる実験を行なったところ、明瞭な結果は得られなかった。本種の野外での採餌行動を1760分ビデオ観察したところ、餌が網に衝突する頻度が一時間あたり1.16回、そのうち捕食に成功する割合は44.4%であった。捕食者との接触は一回観察された。本データは、クモを中心とした三者系の動態モデル作成のパラメータ決定に用いる。
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