研究課題
ゴミグモに見られる、待ち伏せ時の縦糸引っ張り行動について、網上の一定の場所で餌捕獲を繰り返す訓練をクモに施す実験を行なったところ、捕獲場所が異なると縦糸を引っ張る強さも異なるという結果を得た。このことは、縦糸引っ張り行動がクモの情報処理能力の制約に対応した能動的な知覚制御(「注意を向ける」行動)である事を示唆する。また、野外でのクモの捕食行動の観察結果を元に、クモの記憶力に制約があり、捕食者の存在を記憶すると採餌量を最適にする網糸量を実現するための餌環境情報が失われるという仮定を持つ個体ベースモデルによるシミュレーションを行ない、記憶に制約がない場合と比較した。その結果、記憶の制約の個体群動態への影響はわずかながら見られたものの、有意な結果ではなかった。最後に、ギンメッキゴミグモを用いて網の中において方向によって餌定位失敗率に違いがあるかどうかを観察したところ、ゴミグモでは見られた餌定位失敗がギンメッキゴミグモではほとんど見られなかった。このことからギンメッキゴミグモにおいては「注意を向ける」行動が無い事が示唆された。一方、網形態には二種で違いが見られ、ゴミグモと比べてギンメッキゴミグモの網は上半分が大きく長円性が強かった。しかし、これは「注意を向ける」行動が網形態に影響しているときに予想されるゴミグモでより長円性が強いと言う事とは逆であった。以上から、円網性クモでは情報処理能力の制約が一部の種で存在し、網形態及びクモの個体群動態と捕食者との種間関係にはその影響は見られないものの、採餌行動には影響が見られるという結論が得られた。
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