研究概要 |
ナミテントウの鞘翅斑紋には、優劣関係が明らかにされている4つの対立遺伝子に支配された4型(二紋型、四紋型、斑型、紅型)がある。駒井ら(1956)の調査では、日本列島では北に行くほど紅型が多く、南に行くほど二紋型が多いという顕著な地理的勾配が報告されている。駒井らは、このような地理的勾配は斑紋型間の気温に対する適応度の違いによって形成されたものとしている。駒井らの調査からすでに60年余りが経過し、その間、地球温暖化を含め自然環境に急激な変化が生じた。本研究は、ナミテントウの鞘翅斑紋に見られる多型の頻度の地理的分布を調査し、駒井らの調査結果と比較することにより、自然環境の急激な変化が種内の遺伝子構成に及ぼす影響を調べることを目的とする。平成21年度は、留萌市をはじめとする北海道西部および1910年代からの記録が残されている諏訪地方のデータを充実させるための調査を行い、日本全国の100産地から総数40,000個体を超える標本を得た。これらの標本に見られる斑紋遺伝子の地理的分布を、駒井らの記録と比較することにより、地理的勾配は依然として維持されているものの、勾配は過去60年の間に統計的に有意に緩やかになったことを示した。また、各産地に近接した気象測候所の気象データを用いて、過去60年あまりの間の気象の変化を多変量解析によって定量化した。さらに、ナミテントウの同胞種であるクリサキテントウについても京都市周辺、沖縄宮古島で鞘翅斑紋遺伝子の地理的分布について調査を行い、ナミテントウとは逆方向の地理的勾配があることを示唆する結果を得た。
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