長野県上田市の中央水産研究所内に設置した20個の実験プールにウグイを放流し、ウグイの捕食によって水生昆虫類や貝類が減り、底生藻類が増加する栄養カスケード系をつくった。この系において、水生昆虫や藻類を採集するカワラの下面の溝を埋めて水生昆虫類の隠れ場所を減らしたり、20日間の実験中10日目にカワラの両面をたわしでこすり、その生物群集に撹乱を与えたりする操作を行った。実験は20日間を2回繰り返した。しかし、実験終了時の藻類の現存量に、これらの操作の影響は認めちれず、どの実験区でも強い栄養カスケードが認められた。この結果は栄養カスケードが普遍的で環境の影響をうけにくいことを示唆する。 次に、水路に珪藻と藍藻の付着したカワラを20枚ずつ、藻類のついていないカワラとともに設置した。その結果、カワニナなどの巻貝がすばやく反応し、20時間後には珪藻のカワラにもっとも多くの巻貝が付着した。40時間後にサンプリングすると珪藻は食べ尽くされ、藍藻のカワラに多くのカゲロウなどの水生昆虫と巻貝がすみついていた。この結果は藻類に対する貝類やカゲロウの反応が速いことと、これらの無脊椎動物が摂食しやすい藻類を選択することを示す。これまでの実験で、アユが強く摂食した藻類群集は珪藻主体のものから藍藻主体のものに変わることが明らかになっている。今回の実験で、このような魚類の摂食が間接的に水生昆虫や貝類に影響することが明らかになった。 これらの実験により、栄養カスケードによる魚類の藻類への影響は環境条件に影響をうけずに普遍的に見られ、増加した藻類はアユの成長のほか、水生昆虫や貝類にも正の影響を与えることが判った。これらの結果は河川の群集や有用生物の管理に役立つと考えられる。
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