イネの胚発生突然変異体club-shaped embryo1 (cle1)、tryptphan deficient dwarf1 (tdd1)、club-shaped embryo3 (cle3)の3系統を用いて、イネ胚の器官形成におけるマイクロRNA(miRNA)及びオーキシンによる制御機構について解析を進めた。cle1、cle3は胚が棍棒状になる変異体であり、tdd1は胚が球状になる変異体であることが特徴で、共に胚発生において器官形成を行うことができない。これまでの結果から、cle1変異体の原因遺伝子はmiRNAの合成酵素であるOsDCL1 (Oryza sativa Dicer-like 1)であり、また、tdd1変異体の原因遺伝子はトリプトファン生合成経路の酵素であるアントラニル酸シンターゼベータサブユニット遺伝子(ASB1)であることが明らかとなっていた。 本年度の成果として、まず、イネにおいてmiRNAの標的遺伝子の候補であるオーキシン応答性因子OsARF6/8のin situハイブリダイゼーション法による発現パターン解析から、cle1胚ではOsARF6/8の発現が亢進していることが明らかとなった。次に、OsARF8過剰発現体はcle1胚と類似の表現型を示すことから、cle1胚の異常はOsARF8の発現の亢進による可能性が考えられた。このようにイネ胚発生変異体を用いた詳細な解析の結果、イネの胚発生におけるマイクロRNA及びオーキシンによる制御の可能性が示唆された。 さらに、cle1に表現型が類似した別の棍棒状胚変異体系統cle3について、原因遺伝子のポジショナルクローニングを進めた。その結果、CLE3はCLE1とは別の遺伝子座である第6染色体に座乗することが明らかとなった。また、他の植物でのオーキシン関連変異体では重力屈性が異常になることから、重力屈性が異常となるイネの突然変異体crown root less2 (cr12)の解析を進めた。この結果、原因遺伝子は第1染色体に座乗することが明らかとなり、イネの胚発生とmiRNA及びオーキシンの関係についての今後の研究基盤も構築された。
|