葉緑体は光合成を担うオルガネラであり、異なる環境条件下で細胞内の異なる場所に分布することにより、個葉および植物体全体における光合成の最適化に寄与する。特徴的な分布パターンをとる際、葉緑体は表層細胞質において積極的にアンカーされていると考えられる。この仕組みについて解析するため、ホウレンソウ葉肉細胞から細胞膜の細胞質側を露出させた細胞膜ゴーストを調製し、アッセイ系を構築した。アクチン脱重合剤もしくは1μM以上のCa^<2+>処理によって、細胞膜ゴーストからの葉緑体の脱離およびアクチンシグナルの減少が誘導されること、Ca^<2+>の効果がカルモデュリン拮抗剤もしくはカルモデュリン抗体前処理によって抑制されることを示した。カルモデュリンは細胞膜ゴーストの葉緑体上に分布し、これを抗体によって除去することによってもCa^<2+>の効果は抑制された。以上より、Ca^<2+>-カルモデュリン制御の下にアクチン細胞骨格の再構築を経て葉緑体の脱アンカーが起こることが強く支持された。 Ca^<2+>-カルモデュリン感受性アクチン結合蛋白質であるビリンが葉緑体アンカーに関与する可能性を示す結果を得ていたが、テッポウユリビリン抗体によって認識されるポリペプチドをDNase Iアフィニティクロマトグラフィによって部分精製した後、質量分析し、120kDaおよび135kDaのポリペプチドが、各々シロイヌナズナの異なるグループのビリンと高いスコアを示すことを明らかにした。 また、シロイヌナズナ葉肉細胞から調製した細胞膜ゴーストにおいても、葉緑体アンカーがアクチン細胞骨格に依存し、Ca^<2+>の制御を受ける可能性を示していた。質量分析により、シロイヌナズナ葉にビリンAtVLN1、2、3が発現していることを確認し、各々の遺伝子破壊株を入手して細胞膜ゴーストアッセイを行ない、特異的な過程が異常になっていることを示唆する結果を得た。
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