本研究の目的は、光合成光化学系II複合体(以下PSIIとする)における各低分子量サブユニットの役割を、それぞれのサブユニット欠失変異体を用いて、結晶化・X線結晶構造解析と機能解析を組み合わせて解析し、PSII複合体の構造形成・制御機構を明らかにすることである。本年度では、Ycf12(Psb30)欠失変異株からPSII二量体を精製し、結晶化・構造解析を行った。野生体PSII結晶との差フーリエ図から、Ycf12がPSII二量体の周辺部、PsbZの近傍に存在することが判明した。この位置は以前報告された3.0A分解能では未同定のX1ヘリックスに相当し、最近報告された2.9A分解能の構造と一致する。また、PsbZ欠失変異株からのPSII二量体を結晶化したところ、結晶の格子定数が野生体PSIIのものと異なっていた。これは、結晶のパッキングにおいてPsbZが隣接二量体のPsbOと相互作用しているため、PsbZの欠失により結晶中のPSII二量体の配置が変化したことを示している。PsbZ欠失変異株において、弱陰イオン交換カラムにより精製した粗PSII粒子にはYcf12が結合していたが、強陰イオン交換カラムにより調製したpufe PSIIにはYcf12が結合していなかった。したがって、PsbZはPSIIへのYcf12の結合を安定化しており、このことは、PSIIのアセンブリーにおいてYcf12→PsbZの順にPSIIに取り込まれることを示唆している。両変異株から調製したPSII二量体の酸素発生活性はいずれも野生株より低下し、PSIIの含量が減少した。これらのことは、Ycf12またはPsbZの欠失によりin vivoでPSIIが不安定化になったことを示している。
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