研究概要 |
本研究の目的は、光合成光化学系II複合体(以下PSIIとする)における各低分子量サブユニットの役割を、それぞれのサブユニット欠失変異体を用いて、結晶化・X線結晶構造解析と機能解析を組み合わせて解析し、PSII複合体の構造形成・制御機構を明らかにことである。これまで好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus vulcanusを用いて、PsbM,PsbI,PsbZ,Ycfl2の各サブユニット欠失変異株からPSIIを精製・結晶化し、その結晶構造解析に成功し、立体構造に基づき各サブユニットの機能に関する新しい知見を得た。しかし、これまでの結晶の分解能が十分高くなく、また、低分子量サブユニットの欠失によるPSIIの構造変化が小さいため、各々のサブユニットの欠失によるPSIIの構造変化を明らかにすることはできなかった。従って、結晶の分解能を向上させ、PSIIの構造をより高分解能で解析することが本研究の緊急な課題となった。これには、まず野生株由来PSIIの結晶を改善し、分解能を向上させる必要があった。そこで本年度では、野生株由来PSIIの結晶化条件、結晶の抗凍結剤条件などを改善し、結晶の分解能を従来の2.9-3.0 Aから1.9 Aに大幅に改善することができた。得られた結晶を用いて構造解析を行った結果、真の原子分解能でPSIIの構造を解析することができ、これまで未知であったMn4CaO5クラスターの構造や多くのアミノ酸、及び補欠因子の詳細な構造を解明することができた。これにより変異株におけるサブユニットの欠失による構造変化を解明する手段が確立された。同様の方法で変異株由来PSIIを結晶化し、高分解能の構造解析を行えば、野生株と変異株の構造的違いを明らかにすることができ、サブユニットの欠失によるPSIIの構造変化を明らかにすることができる。
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