1. 紅色光合成細菌Rubrivivax gelatinosusの光化学反応中心複合体への電子供与体として、これまで示してきたHiPIP、チトクロムc_4、高電位(HP)および低電位(LP)チトクロムc_8に加え、第5の水溶性チトクロムを同定した。この新規チトクロムは酸化還元電位が280mVであり、アミノ酸配列からはチトクロムc_8のホモログであった。その遺伝子は亜硝酸還元酵素遺伝子群nirSMCFDLGHJENオペロンの中にあり、かつR.gelatinosus野生型で初めて亜硝酸呼吸能が認められたことから、この新規チトクロムの本来の位置づけが亜硝酸還元に働くNirMタンパクであることが明らかとなった。遺伝子情報に基づく分子系統学的解析の結果はNirMがR.gelatinosusのチトクロムc_8の起源であることを示唆した。この菌の光合成関連遺伝子は遺伝子水平伝播によって比較的新しく獲得されたことがすでに示されているが、NirMはこの細菌が光合成能を得るときにその電子伝達を補うようになり、やがて遺伝子重複によって生じたチトクロムc_8が光合成での電子伝達に適したものへと進化していったと考えられた。 2. 海洋性の紅色光合成細菌Rhodovulum sulfidophilumでは、光合成反応中心への電子供与体として多くの紅色光合成細菌に見られる水溶性のチトクロムc_2に加え膜結合性のチトクロムc_<2m>も電子供与体として働いている。チトクロムc_<2m>が進化的にどのように生じたかを近縁種におけるチトクロムC_2およびチトクロムc_<2m>のアミノ酸配列を比較することにより推定した。分子系統樹を作成したところ、チトクロムc_<2m>はRhodovulum属が他の属と分岐してまもなく、かつR.sulfidofilumと他の種が分岐する以前に生じたことが示唆された。
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