研究概要 |
葉緑体遺伝子発現は,光合成などに関与する機能複合体の分子構築に必須の過程であり,主に翻訳の段階で,光などの周囲の環境に応答した制御を受けることが知られている.しかし,その詳細なメカニズムには不明な点が多い.そこで,本研究では葉緑体翻訳開始機構を詳細に解析した. まず,タバコ葉緑体in vitro翻訳系を用いて,psaAおよびycf4 mRNAs上の翻訳開始に必要な領域を決定した.その結果,psaAの翻訳開始はSD様配列にほぼ完全に依存し,それを含む短い領域があれば効率よく翻訳が起こることが分かった.このことは,psaAの翻訳が開始よりむしろそれ以降の段階で制御されている可能性を示唆している.一方,SD様配列を持たないycf4の翻訳開始に必要なシス配列が比較的開始コドン近くにあることが確認できた.この情報は,翻訳制御を担うトランス因子の精製の際に役立つものと考えられる. 上記の遺伝子以外に,SD様配列のないclpP1の翻訳開始機構の解析も行った.その結果,clpP1の翻訳開始を促す正のシス配列が開始コドンの数十塩基上流にあり,開始コドンのすぐ上流には翻訳を抑制する負の制御配列が存在することを示す証拠を得た.このことは,葉緑体タンパク質の品質管理に関わるclpP1の翻訳制御のメカニズムがかなり複雑であることを示唆している. さらに,psbA, psbNおよびrps2などの翻訳開始に関与すると思われるトランス因子の候補をいくつか同定した.rps2の場合,別の生物種の翻訳に関与することが明らかになっているタンパク質のオーソログが含まれていた.一方,psbAおよびpsbNの場合,トランス因子の候補として核酸結合能を有する代謝系タンパク質が含まれていた.その生理活性はレドックス状態に依存するため,これが環境に応答した翻訳制御に関与しているのかもしれない.
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