インスリン様成長因子(IGF)はヒトの成長を調節する重要なホルモンである。本研究の目的は、最近われわれが昆虫で初めて発見したIGF様ペプチド(8K-BLP)の産生組織、分泌調節、生理機能の解析を進め、昆虫の変態(成虫発育)における同ペプチドの生理機能を解明することである。これまでの解析により、同ペプチドはカイコガにおいて、蛹期特異的に主に脂肪体で産生され、成虫組織原基に対し成長促進作用を示すことが明らかになっている。本年度は、カイコガにおける同ペプチドの産生組織と産生時期の網羅的解析、微量測定法の開発と血中濃度の測定、RNAiを使った生理機能解析、ショウジョウバエの相同ペプチドの検索を行った。以下は主な研究成果とその意義である。 1)免疫組織化学とin situハイブリダイゼーションによる解析により、8K-BLPは脂肪体の他、卵巣小管膜、精巣鞘膜および脳において時期特異的に産生されることが示された。これらの器官での産生は8K-BLPの局所的作用と広範な機能を示唆するものである。 2)8K-BLPの微量測定法を開発し血中濃度を測定した結果、蛹化前日に上昇し始め、蛹化後は数100nMに達することが明らかとなった。この結果は、8K-BLPが蛹期のみならず前蛹期にも重要な機能を果たしている可能性を示唆する。 3)カイコガ前蛹にdsRNAを注射しRNAiによる遺伝子ノックダウンを試みたが期待する効果は観察されなかった。鱗翅目昆虫でのRNAiは例外を除き困難と言われているが、その定説を追認する結果であった。 4)ショウジョウバエで同定されている7種のインスリン族ペプチドの中の一つDILP6の遺伝子が、8K-BLPと同様に変態期特異的に脂肪体で高発現することが明らかとなった。DILP6は8K-BLPの機能的相同ペプチドと考えられ、IGF様ペプチドが昆虫界に広く分布することが強く示唆された。
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