研究概要 |
クサフグの月周同調産卵リズムを制御する中枢機構を明らかにするために,本研究課題ではその細胞学的および分子的な基盤を確立すること目的とする。本年度は次の3つの点について研究を行った:1)行動発現制御因子とメラトニン受容体の遺伝子のクローニング,2)遺伝子発現の日周変動の解析,3)フィールドにおける産卵行動の回帰性の検討。各項目で得られた研究成果は下のとおりである。 1)遺伝子クローニング:行動発現の制御に重要な働きを持つと考えられる3種類のGnRH(タイGnRH,ニワトリGnRHII,サケGnRH),Kiss2とその受容体(Kiss2r),GnIHとその受容体について,トラフグゲノム情報を基にしてPCR法によりそれぞれの全遺伝子配列を決定した。また,生物リズムの形成に重要な4種類のメラトニン受容体サブタイプについて,同様にして遺伝子の部分配列を決定した。 2)発現の日周変動:上記の各遺伝子のmRNA量の特異的定量系をリアルタイムPCR法により確立した。次年度に実施を予定している各遺伝子の発現の月周変動についての解析に必要な基礎的知見として,まず各遺伝子の日周変動の解析を行った。産卵期に3時間おきに24時間,脳と血液を採取した。脳内の3種類のGnRH遺伝子については明らかな日周変動は見られなかったが,Kiss2およびKiss2rは明期にピークを持って日周変動することが分かった。また,4種類のメラトニン受容体サブタイプは共に暗期にピークを持つ日周変動を示し,これらは恒暗条件下でも変動することから,概日時計によって調節されることが示唆された。また,間脳では4種類のメラトニン受容体サブタイプ遺伝子は同期して日周変動することが分かった。 3)産卵行動の回帰性の検討:熊本県富岡においてカラーピンを用いて149匹を標識放流した。2週間後の大潮に同産卵場に回帰した魚548匹を採集した結果、5匹が標識されていた。また,1年前に標識した魚も1匹見つかった。これらのことより,クサフグは毎年同じ場所で産卵すること,2週間ごとの大潮の産卵日に繰り返し同じ産卵場に回帰することが明らかになった。
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