円石藻は、細胞表面に石灰化された鱗片である円石を持つ海産性の藻類である.本研究では、円石藻Pleurochrysis haptonemoferaのcDNAマクロアレイを用いて遺伝子発現の網羅的解析を行い、円石形成に関わる可能性のある遺伝子の解析を行っている。これまでに核相の異なる円石形成細胞と非形成細胞、野生株と円石欠損変異株、石灰化促進条件と抑制条件においた細胞との比較実験を行っているが、このうち円石形成細胞で数十倍の発現量を示すContig、 ConC12(putative keratin associated proteinをコード)が、東京大学・長澤寛道教授らが近縁種P. carteraeで見出した円石結合タンパク質と高い相同性をもつことが示された(私信)。また、遺伝子の機能推定や比較ゲノムを進めるために必要なアノーテーション検索、モチーフ検索、Counterpart検索等が可能なESTデータベースも、明治大学・矢野健太郎講師との共同研究によりほぼ完成に近づいている。 円石形成に重要な働きをしていると考えられている酸性多糖の円石における局在性についても、検討を行った。円石に含まれる酸性多糖Ph-PS-1、-2、-3のうち、Ph-PS-2はウレア処理(8M、100℃)でも抽出されないことが分かった.さらに、様々なpHでCaCO3の結晶を溶解させた後ウレア処理を行うことにより、Ph-PS-1は円石の表面に、Ph-PS-3はそのやや内側に、Ph-PS-2は一部は結晶内部にも存在していることが明らかとなった。また、Ph-PS-2抗体を用いた多糖の検出により、Ph-PS-2は円石表面にも存在し円石に強く結合していることが示された。これらの結果により、Ph-PS-2は結晶核の形成に、Ph-PS-3は結晶の成長に関与しているという変異株の観察に基づく仮説(Marsh 2003)が強く支持された。
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