本研究は、変態期の両生類消化管を実験モデルとして、消化管上皮幹細胞を制御するニッチ(結合組織を中心とした微小環境)の分子レベルでの解明を目指している。昨年度までに、熱ショック蛋白質プロモーターの下流にdominant positive型甲状腺ホルモン受容体遺伝子(dpTR)を導入したトランスジェニックアフリカツメカエル(dpTRカエル)の小腸を用いて、成体型幹細胞の出現から新たな上皮形成に至る一連の過程が、甲状腺ホルモン(TH)非存在下のin vitroでもdpTR遺伝子を発現させることによって誘起されることを実証した。そこで本年度は、このdpTRカエルの小腸を用い、野生型カエル小腸との間で上皮・結合組織再結合実験を行うことにより組織依存的にdpTR遺伝子を発現させ、幹細胞を起源とする成体型上皮形成過程がどこまで進行するのかを免疫組織化学的に解析した。dpTR遺伝子を(1)上皮・結合組織ともに発現する小腸、(2)上皮または(3)結合組織のみで発現する小腸、(4)両組織とも発現しない小腸、の4種類について調べたところ、TH非存在下のin vitroで成体型上皮を形成する幹細胞が出現したのは(1)の小腸のみであった。(4)の小腸では幼生型上皮が維持され、(2)の小腸と(3)の小腸では再構築過程の一部は起こるものの、成体型上皮の形成には至らなかった。これらの結果は、消化管上皮幹細胞の制御には結合組織との相互作用が不可欠であり、上皮および結合組織でTRにより発現が調節される遺伝子が共に幹細胞制御に関与していることを示している。さらに、本年度はGFP遺伝子を導入したトランスジェニックカエルを用いた培養実験も行い、幼生期に分化している上皮の一部がTHによって脱分化することにより、成体型幹細胞が出現することも明らかにした。
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