本研究は、変態期のアフリカツメガエル小腸を実験材料として、上皮幹細胞を制御するニッチの分子レベルでの解明を目指している。本年度は、これまでに同定されている甲状腺ホルモン(TH)応答遺伝子のうち、シグナル伝達経路に関わる遺伝子に注目して解析を行った。 各遺伝子の発現パターンと小腸再構築との関連を、RT-PCR、in Situ hybridizationおよび免疫組織化学的手法を用いて調べたところ、Shhが幹細胞出現時の上皮で特異的に発現するのに対し、1.受容体のPtc-1やSmoは、上皮では発現せず、上皮直下の結合組織で強く発現すること、 2.Ptc-1、Smo、GlisなどのShh経路の遺伝子の発現は、THだけではなくShh自身によっても促進されること、などの知見を得た。これらの結果は、Shhが周囲の結合組織に働きかけ、結合組織が構成するニッチの形成に中心的な役割を果たすことを示唆している。また、幹細胞出現時には、哺乳類小腸上皮の細胞再生に必須であることが知られているNotch経路やcanonical Wnt経路が活性化される他、noncanonical Wnt経路も上皮で活性化されることを見出した。したがって、小腸の再構築過程では、複数のシグナル経路が相互に作用しながら、幹細胞を制御していると考えられる。 現在、これらのシグナル経路の幹細胞制御における役割や相互の関連を追究していくため、小腸の器官培養系を用いて、各経路に関わるTH応答遺伝子の機能解析を進めている。これまでに、Wnt5aの上皮脱分化への関与を示す結果などを得つつある。また、生体内での各遺伝子の機能解析も可能にするため、トランスジェニックカエルの作製にも着手している。
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