研究概要 |
原生生物テトラヒメナ(Tetrahymena pyriformis)の繊毛運動の持続のためには,ATPの連続的な供給が必要であり,それはアルギニンキナーゼ(AK)を介した「アルギニンリン酸シャトル」機構によって維持されていると考えられる.我々は,テトラヒメナに分子量の異なる二種類のAK(40kDaのAKI及び遺伝子の重複と融合によって生じた2ドメイン型80kDaのAKII)が含まれ,免疫抗体法に基づいて,AKlは繊毛に,AKllは細胞内全般に局在していることを見い出した. 本年度は,先ず,2ドメイン型AKIIとAKIの酵素機能に違いを明確にした.AKI並びにAKII,そしてAKIIの2つのドメインを切り離した計4種類のリコンビナント酵素を作成し酵素活性を測定した。AKnの各ドメインは単独でも活性を示し,ドメイン間に相互作用があることも確認された.AKlとAKlIの触媒効率K_<cat>/K_d^<Arg>・K_m^<ATP>値を上ヒ較すると,AKIがAKIIよりも約1.5倍程度高いことから,AKIの方がより効率的な酵素であると考えられた.従って,両酵素は,局在する場所に応じたそれぞれの酵素機能を持つと言える. AKIのN末端配列にミリストイル化シグナルがあることに注目し,「AKIに存在する疎水的なミリストイル基がAKIの繊毛膜への局在を促進しているのではないか」という作業仮説を立てて,これを実証していくための基礎実験を行った.ミリストイル化が起こるためには,その反応を触媒する酵素ミリストイルトランスフェラーゼ(NMT)が必要である.NMTが原生生物にも存在することをEST及びゲノムデータベースを解析して確認した.縮重PCRプライマーを用いて,テトラヒメナのNMTの大部分をPCR増幅した.また,NMTで最も性質が良く分かっているシロイヌナズナの遺伝子クローニングにも着手した.
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