研究概要 |
非横紋筋細胞におけるトロポニンの解析を前年度に続き行った。今年度は、これまで主に研究対象とした線虫に近縁の微小動物クマムシ(緩歩動物門)を用いて非横紋筋細胞にトロポニンが存在するかを解析した。この動物では、全身に非横紋筋細胞が張り巡らされていることが知られている。これまでの電子顕微鏡観察によればこれらの細胞内では平滑筋の場合の様にアクチン線維が細胞内を走行している。クマムシを凍結割断して、抗線虫TnI抗体で処理すると、咽頭部の筋を除くからだのほとんど全域の単核の平滑筋様細胞がアクチンと同様のパターンで染色されることが認められた。クマムシの全抽出タンパク質の抗TnI抗体を用いたウエスタンブロット解析で単一のバンドが検出された。クマムシのTnIと思われるタンパク質は線虫のTnIよりやや小さく分子量は31,000程である。さらに、トロポニンをもつアクチン線維が運動装置から解離する(弛緩する)条件、即ちカルシウムキレート剤(EGTA)とATPを含む生理的塩濃度の溶液中でクマムシをホモジェナイズするとTnIをもつアクチン線維が解離することが認められた。以上の観察から、クマムシの非横紋筋細胞ではトロポニンがアクチン線維に存在し、収縮制御を担っているであろうと推測された。クマムシのトロポニンの検出は世界最初であり、線虫のケースに続く非横紋筋細胞トロポニンのもう一例として意義深い。なお、抗線虫TnC抗体を用いて調べたところ、反応性はみられず、線虫とクマムシTnCでは抗原性が異なると推測される。クマムシ以外に、非横紋筋細胞をもつと推測されるプラナリアでも解析を試みたが、解析に使える抗体を用意できず結果を得ることは出来なかった。
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