研究概要 |
ユーラシア産野生ハツカネズミの進化史についてミトコンドリアDNAおよび核ゲノムの変異に基づき、解析を行ったところ、パキスタンおよびアフガニスタン地域におよそ150万年前に起源を発し、3つの亜種グループとして複雑な網状進化を行ったのち、10万年前以降のヒトの移入に伴い、ユーラシア全域に分布拡大を行ったことが示唆された。日本列島にはインド東部に起源を発する系統と中国北東部および朝鮮半島に起源を発する系統が過去1万年前以降に混合したことが示唆された。さらに、染色体8番のハプロタイプ解析(200kbウインドウ)により歴史的な雑種形成があったことがはすでに示唆していたが(Nunome et al.Molecalar Eeology2010)、今回、1Mb,5Mbの二つのウインドウサイズで詳細な解析を行ったところ、その混合の時期はおよそ400年前と推定された。過去50年間に西ヨーロッパ産由来の系統の遺伝的汚染が釧路、共和、厚木の3地点において生じたことも示唆された。ハプロタイプ解析という新しい手法が組換体ハプロタイプの地理的分布域および、組換型ハプロタイプの長さから雑種化形成の時空間動態を把握することを可能とし、二次的接触、現代における遺伝子汚染の実態を調査する上で極めて有効であることが示された。日本列島のクマネズミの毛色多型を解析したところ、全身黒色化を促す変異が毛色関連遺伝子Mc1rの280番目のサイトのGからAへの変異にあることを明らかにした(Kambe et al.,Zoological Science,in press)。また、沖縄島には頭部周辺に白斑変異を示す個体が8.6%の頻度で観察された。小笠原諸島にも尾部先端部に白化を示す変異を持つ個体も観察されており、今後、これらの毛色多型の責任遺伝子の特定により哺乳類の毛色多型の進化的意義についての調査が可能になるものと思われた。
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