研究概要 |
1 ゲノム規模の巨大配列データセットに基づく系統推定をする場合,膨大な計算量(時間)と遺伝子による進化パターンの違いをどのように克服するかが問題となる.近隣接合法による系統樹作成は,他の方法(最尤法,ベイズ法など)と比べて計算量が少なくて済む一方,解析に複数の塩基置換モデルを組み込む方法が開発されていなかった.この問題を解決するために,長大な塩基配列を,進化パターンの異なる部位に分割し,それぞれの部位ごとに最も相応しい塩基置換モデル,補正法を適用して,遺伝距離行列を計算し,それらの遺伝距離行列を融合する分節的解析法(ブートストラップ解析を含む)のプログラムMultiGeneNJを開発した.この方法は,現在普及しつつある次世代シークエンサーから生み出されるであろう莫大なゲノム配列情報に基づく系統推定を効率的に進めるのに役立つと期待される. 2 以上の解析法を,モデル生物であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を含むシマショウジョウバエ亜属(Sophophora)と類縁が推定されているニセヒメショウジョウバエ属(Lordiphosa)の系統関係解析に適用した.その結果,ニセヒメショウジョウバエ属は,新熱帯区に分布するシマショウジョウバエ亜属のsaltans種群+willistoni種群の姉妹群であることが判明した.また,この2系統(ニセヒメショウジョウバエ属とsaltans種群+willistoni種群)の旧世界/新世界の分離は,第三紀始新世中期のヨーロッパ大陸と北米大陸の生物地理学的分離によって起こったと推定され,Throckmorton(1975)が提唱したショウジョウバエ科の旧世界熱帯/新世界熱帯系統の分離仮説に,系統地理学的・地史的新知見を与えた.
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