研究概要 |
海洋島における蘚苔類の多様性,種分化,植物地理および島への移入経路を探るため,小笠原諸島において試料の収集を行った.今年度は7月に聟島列島,9月に父島と母島で現地調査を行った. 今年度および過去に採取された小笠原諸島産の試料を光学顕微鏡下で比較形態学的研究を行い,外部形態による種の同定を行った.観察した試料の一部を広島大学植物標本庫(HIRO)のデータベースに登録するとともに植物標本として保管した. これまで聟島列島からは1種のみの蘚苔類が報告されているだけであり,蘚苔類の本格的な調査は今回が初めてである.今回は聟島列島の中の聟島,媒島,嫁島の3島で調査を行い,約300点の試料を収集した.これらの試料からこれまでに蘚類8属10種,苔類5属7種を同定した.聟島列島は現在無人島であるが,野生化したヤギによる植生破壊がすすみ,自然植生はほとんど残されていなかった.今回確認した蘚苔類はいずれも熱帯域の乾燥地に分布する種であった.その中でハタケゴケ属の苔類がキャンプサイト付近で発見されたが,ハタケゴケ属の胞子サイズから考えて,人為的に持ち込まれた可能性が考えられた. 父島と母島での調査では,多様性解析用の試料収集のほか,小笠原諸島固有種であり火山列島にも分布が期待されているムニンシラガゴケの集団サンプリングを行った.これまでにも父島と母島では蘚苔類の調査が何度か実施されているが,今回の調査では数種の小笠原諸島新産種が発見された.また,蘚苔類集団内,集団間の遺伝的分化を解析する準備として,今年度は遺伝的多型を検出するための予備実験を行った.
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