研究概要 |
平成22年度は、脆弱単細胞性海洋プランクトンのうち、外洋域(極低温下)で出現する無殻繊毛虫プランクトンにも注目し、この生物群の生物相、形態学的な記載、そして、細胞内外の形態の種内変異について調査した。採水器で採集された海水を酸ブアン液で直ちに固定し、定量鍍銀染色法(フィルターで濾過濃縮、標本をフィルターに接着、好銀性たんぱく質を染色、脱水、透徹、封入)を用いて、採集した無殻繊毛虫をもれなく永久プレパラートに封入した。その後、生物顕微鏡下で細胞内外の構造やサイズを詳細に観察・計測し、その記載を正確に行うと同時に、過去の記載と比較し、その結果を学術雑誌Plankton and Benthos Researchに英文で公表した。 カナダの北極海側にあるフランクリン湾の、厚さ約2mの海氷の直下で出現する繊毛虫プランクトンは、個体数密度が2400cells/L、総生物体体積が4.24×10^6μm^3/Lであった。殻をもたない脆弱な無殻個体が圧倒的に優占し、個体数密度で98.3%、総生物体体積で98.1%を占めていた。特に、独立栄養者として注目されるMyrioneta rubraという種が個体数密度で過半数を占め、Lohmaniella oviformisという種が総生物体体積で19.2%を占めた。Spirotrichia綱やLitostomatea綱に属する無殻繊毛虫10種を正確に記載し、そのうちの8種(Spirotrichea綱ではLeegaardiella ovalis, Lohmaniella oviformis, Tontonia gracillima, Strombidium acutum, S.constrictum, S.dalum, S.epidemum、Litostomatea綱ではMyrionecta rubra)が同定された。同定されたもののうち、S.constrictumとM.rubraを除いた6種は、過去に報告されて広く認識されている記載とは一致しない形態(例として、繊毛膜板の配置、キネティッドのタイプ、キネティッドの数、個体サイズ等)が見られ、これらの種、また/もしくは、これらの形態に関しては、種内変異が大きいことが考えられた。
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