研究概要 |
平成20年度の研究で,次のような成果をあげた.(1)ヒトから得たヒト嶢虫卵よりDNAを抽出してCox1塩基配列を解読し,系統解析を行った.その結果これまで飼育チンパンジー寄生ヒト嶢虫Enterobius vermicularisにしか見られなかったB型塩基配列の存在を証明した.このことは飼育チンパンジーに寄生するヒト嶢虫がヒト由来であるという仮説を支持する重要な所見であり,アフリカのヒトには残るC型も寄生していることを示唆している.(2)アフリカの野生チンパンジー(タンザニア産,ガボン産)53頭,ボノボ(コンゴ産)55頭,ゴリラ(ガボン産)241頭,ボルネオの野生オランウータン36頭の糞便を日本モンキーセンター,山口大学,京都大学の協力で採取して検査し,ガボンのチンパンジーからチンパンジー嶢虫E.anthropopitheci,オランウータンからPongobius属に入ると思われる嶢虫類を検出した.このPongobiusはスマトラ島のオランウータンから記載されているP.hugotiとは異なり,オランウータンの分散過程との関連が注目される.(3)日本モンキーセンターで飼育されている霊長類を調査し,ケナガクモザルとウーリーモンキーからクモザル嶢虫Try panoxyuris atelisを得て,Cox1塩基配列を比較し,これらの間,さらにジェフロイクモザル寄生との間にも差異を認めた.これは中南米でクモザル類と嶢虫類が共進化した結果と考えられる.(4)米国研究者からアルゼンチンホエザルの嶢虫提供を受け,ホエザル嶢虫Try panoxyuris minutusに近いものの卵が大きく,亜種レベルで異なると推定された.
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