本年度は、未記載種の問題を解決するため、性的に成熟した標本を得る目的で、沖縄島の他、宮古島と久米島でそれぞれ2回の採集調査を行った。宮古島では藻類共生性Diplosoma属3未記載種について、胚を持った群体を採集することに成功し、うち2種については新種記載を行うとともに、COI遺伝子の部分配列を決定して「種の名札」として利用できる可能性を示した(記載論文受理済み)。残る1種についても、記載論文を準備中である。また、未同定属1種については、まだ成熟した精巣を持つ標本が得られていないが、かなり生殖シーズンが限定的であることが明らかにできたので、来年度の調査に期したい。この他、過去の採集標本を精査し、共生性Diplosomaでは鰓嚢の鰓孔数が種特異的で安定していることを明らかにし、例外的に鰓孔数が安定しない1種をD. variostigmatumとして新種記載した。 我々の先行研究から、Didemnum molleの異なる色タイプでは、有性生殖期や共存する甲殻類相に違いのあることがわかっていたが、今回COI遺伝子の部分配列を用いて4morphotypeについて解析を行った所、産地の異なる同一のmorphotypeが単系統群となることが明らかとなり、本種の各morphotypeはそれぞれ独立の種に分化していることが示唆された。 Lissoclinum timorenseの遊泳幼生を得ることに成功し、垂直伝播される共生藻保持構造について調べたところ、胚後半部の表面が粘着性のある襲構造を持ち、ここに共生藻が付着していた。また、幼生の光受容器や付着器官のある胚の前半部は、薄い被嚢シート(幼生被嚢)に覆われ、邪魔になる恐れのある共生藻の付着を防いでいた。この保持様式は別属のD.molleのものとよく似ているが、各属の単系統性が分子系統では支持されているので、収斂ではないかと考えられる。
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