研究課題
本研究では、花虫網のイシサンゴ類と鉢虫網のサカサクラゲを研究対象とし、再生、生殖開始年齢、老化、共生、そしてポリプ世代とクラゲ世代の差異などの生活史特性を分子生物学的手法を用いて解明することを目的とした。今年度は、サンゴやサカサクラゲの寿命を、細胞の老化や分裂寿命に関するテロメラーゼやテロメア長の観点から研究した。アザミサンゴとサカサクラゲの両者において、テロメアは脊椎動物と同様TTAGGGの繰り返し配列よりなること、そして体細胞組織がテロメラーゼ活性を有することを示す成果を得た。サカサクラゲにおいて、無性生殖を行い寿命の長いポリプ世代と有性生殖を行意寿命の短いクラゲ世代間で、テロメラーゼ活性に顕著な差がないことを見いだした。この結果は、両世代の寿命の差が体細胞組織のテロメラーゼ活性の差によっては説明できないことを示唆する(Ojimi et al.2009)。またサンゴやサカサクラゲにおいてテロメアの隣接配列を決定することで、ヒトで開発された特定染色体のテロメア長を測定するSTELA法をサンゴやサカサクラゲに適用することに成功した。(Ojimi et al.投稿準備中)。単体サンゴのトゲクサビライシにおいて、個体のサイズとテロメア長が負の相関関係を示すことから、テロメア長がサンゴの年齢を示す可能性が示唆された。また、クラゲ世代は、ポリプ世代よりもテロメア長が長い傾向を示すことから、ポリプが横分体形成によりクラゲ体を形成する際にテロメア長の回復が起こる可能性が示唆された。今後、サンゴ群体内でのポリプ間でテロメア長に差があるかなどについて調べるとともに、褐虫藻との共生関係が宿主の形態形成や寿命などの生活史特性にどのような影響を及ぼすかを調べることが今後の課題である。
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Comparative Biochemistry and Physiology, part A 152
ページ: 240-244