本研究では、花虫綱のイシサンゴ類と鉢虫綱のサカサクラゲを材料とし、刺胞動物の顕著な再生能力や際限の無い無性生殖を可能にするメカニズム、有性生殖と老化や寿命との関係など、刺胞動物の生活史特性を分子生物学的手法を用いて解明することを目的とした。 (1) サンゴやサカサクラゲなどゲノム情報のない非モデル生物において、テロメアの隣接配列を決定することで、特定染色体のテロメア長を測定する方法(簡便型STELA法)を開発した。 (2) 単体性サンゴであるトゲクサビライシにおいて、サンゴ重量とテロメア長の間に負の相関関係があること、精子のテロメアは体細胞のテロメアより長いことを見出し、単体性サンゴのテロメア長がサンゴの年齢とともに短縮すること、テロメア長によりサンゴの年齢を推定できる可能性があることを示した。 (3) 群体性サンゴであるアザミサンゴにおいても、テロメア長を測定することに成功し、群体内のポリプが同一年齢なのか、ポリプ形成の時期によりポリプ問で年齢が異なるのかなどを調べる道が開けた。 (4) サカサクラゲにおいて、無性生殖を行い寿命の長いポリプ世代と有性生殖を行い寿命の短いクラゲ世代で、テロメア長を比較した結果、クラゲの傘部は、ポリプよりもテロメア長が長い傾向を示すことから、ポリプが横分体形成によりクラゲ体を形成する際にテロメア長の回復が起こる可能性が示唆された。ただし、組織内の生殖幹細胞や体細胞性幹細胞の頻度や分布により、テロメア長の差が生じる可能性もあり、これら幹細胞の分布密度を解析することが必要である。
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