遺伝子重複は遺伝子の機能分化を促進する重要なメカニズムであるが、適応的種分化と直接に結びつくような知見は多くない。遺伝子重複後の分子進化についても、重複した遺伝子が新機能を獲得するのか、それとも機能分担が進む方向性が高いのか、意見が分かれており明確な証拠はまだ少ない。遺伝子重複は頻繁に起きている事象であり、特に植物では倍数体植物が大変多く、倍数化というゲノム全体の遺伝子重複が生じているわけだが、その遺伝子の重複とその後の遺伝子の機能分化というメカニズムが生態的な分化を引き起こし種分化にいたる証拠を詳細に示している研究例はない。 本研究の目的は、その倍数化という大規模な遺伝子重複のあとに短期間のうちに様々な水分環境に適応放散した異質四倍体植物をもちいて、冠水・乾燥ストレスに関与する重複した酵素遺伝子群が適応的な分子進化を示しているのかを明らかにし、またその祖先種である二倍体植物における酵素群の発現調節を行う遺伝子の分子進化と比較することである。 当該年度には、その異質四倍体と二倍体の推定両親種において、冠水・乾燥ストレス時にはたらく酵素のアイソザイムの発現パターンについて、様々な水分条件のもとで比較し、発現パターンのスクリーニングを行った。その結果、幾つかの酵素において、アイソザイムの発現に器官特異性や誘導性の変異が見つかった。また活性の強弱においても変異があり、同一の水分条件であっても分類群ごとに異なる発現パターンを示すことが明らかになった。この結果からターゲットにする遺伝子を幾つか選定することができ、これらの酵素タンパクの遺伝子のスクリーニングが現在進行中である。
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