遺伝子重複は遺伝子の機能分化を促進する重要なメカニズムであるが、適応的種分化と直接に結びつくような知見はまだ少ない。さらに遺伝子重複後の分子進化についても、重複した遺伝子が新機能を獲得するのか、それとも機能分担が進む方向性が高いのか、意見が分かれており、明確に適応的進化を示した研究例は野生生物では数例しかない。しかし、遺伝子重複は頻繁に起きている事象であり、特に植物では倍数体植物が大変多く、倍数化というゲノム全体の遺伝子重複が生じていることから、その遺伝子の重複とその後の遺伝子の機能分化というメカニズムが、生態的な分化を引き起こし種分化にいたる仮説は可能性が高いと思われる。 本研究の目的は、その倍数化という大規模な遺伝子重複のあとに短期間のうちに様々な水分環境に適応放散した異質四倍体植物をもちいて、冠水・乾燥ストレスに関与する重複した酵素遺伝子群が適応的な分子進化を示しているのかを明らかにし、またその祖先種である二倍体植物における酵素群の発現調節を行う遺伝子の分子進化と比較することである。 さまざまな生育地に適応している異質四倍体群と二倍体の推定両親種において、冠水・乾燥ストレス時にはたらく酵素のアイソザイムの発現パターンで活性の強弱があったものについて、adhを中心に塩基配列を決定した。その結果、構造遺伝子部分についての塩基配列で92-96%の相同性を示し、非同義置換であってもタンパク構造や機能には影響がないことが推測された。
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