研究概要 |
小型甲殻類の一群であるMesopodopsis属アミ類は生物量が極めて多く、沿岸生態系の鍵種であるのみならず魚類養殖の餌料として利用されている他、地域によっては人間の食料として漁獲の対象になっている。近年は各種バイオアッセイの試験生物としての利活用も注目されている。 本研究を通じ、従来1種と考えられてきたM.orientalisが大きく2つの遺伝的系統からなる複合種群であることが明らかになった。平成21年度、あらたにベトナム、ボルネオ、フィリッピンからの試料採集と遺伝子分析を実施し、それぞれの地域個体群の遺伝的背景を検討した。また、マレー半島東部群のM.orientalis個体群の動態、並びに汽水産M.tenuipesを含む表生甲殻類と寄生性繊毛虫の生物相互関係について検討をした。これらの解析結果から: 1)Mespopodopsis tenuipesはマレー半島からベトナム、フィリッピンの汽水に広く分布する。但し、形態面では本質的な違いがみられないにも拘わらず、遺伝的には東南アジアの島嶼部の個体群は東南アジアの大陸沿岸(ベトナム~マレー半島)及びボルネオ中部群とは大きく異なることが明らかになってきた。また、ボルネオでも地域的に大きな遺伝的分化が検出された。M.orientalisがM.tenuipesとほぼ同様な地理分布をすることが明らかになった。遺伝的には、M.tenuipesと似た結果が得ちれたが、異なる部分もあり,両種の種分化と拡散過程の検討が今後の課題となる。 2)沿岸産のM.orientalisの繁殖生態と解析した結果、マレー半島西岸では汽水産のM.tenuipesに比べて小卵多産であること、生活史のすべての段階にわたって後者の種より小型であることが確認された。 3)Mesopodopsis属のアミ類を含む表生甲殻類が寄生性繊毛虫の宿主となり、これが普通にみられる現象である一方、この生物関係は海域では極めて成立しがたいことが明らかになってさた。こうした結果から、奇生繊毛里が環境指標の生物マーカーとして利用できる可能性が示唆された。
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