これまで東南アジアにおけるMesopodopsis orientalis種群の標本収集と形態並びにミトコンドリア遺伝子の分析を進め、特に平成22年度は遺伝子の予備分析から大きな変異が認められたフィリッピンの試料収集に努め、ルソン、パナイ及びギマラス島の6地点からM.orientalisとM.tenuipes両種の標本を得た。これらの分析から、フィリッピンの個体群は何れもアジアの他の地域の個体群とは遺伝的に大きく異なっていることが再確認された一方、フィリッピンの島嶼間でも遺伝的分化が進み、島(もしくは島嶼群)毎に固有の地方個体群を有している一端が浮かび上がってきた。両種ともフィリッピンの個体群と他地域の個体群と間で顕著な形態的差異が見出せなかった。但し、いくつかの汽水~淡水産甲殻類で指摘されている生物地理学上のHuxley線をまたぐ東西間で長期間にわたって遺伝的交流が断たれている可能性が浮かび上がってきた。今後は各個体群の成立過程を東南アジアの地理の歴史的変遷や海流系など時空間要因との関係を念頭に検討することが重要である。 試料収集の過程で、今年度新たにパキスタンにおけるM.orientalisの生息が確認された。これは本種のパキスタンにおける初出現記録であった。これらの調査結果から、M.orientalisはパキスタンからフィリッピンに至る南アジア並びに東南アジアの熱帯・亜熱帯沿岸・汽水に広く分布することが明らかになった。他方、姉妹種M.tenuipesはマレー半島からフィリッピンの汽水域を中心に分布することが確認されたが、南アジア及びインドネシアでの生息は現在までのところ知られていない。 また、本研究課題の派生研究としてMesopodopsis属アミ類と同所的に分布し餌料等を巡って潜在的な競合関係が推定されるRhopalophthalmus属アミ類のアジア東部(マレー半島から日本)域における出現種の再検討を行い、結果を公表した。
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