シアル酸の重合体であるポリシアル酸構造は、脳髄膜炎細菌の表面莢膜多糖成分として、また、脊椎動物では神経形成期における神経細胞接着分子(NCAM)にその存在が知られている。現在、NCAMを中心にした研究の結果から、ポリシアル酸が細胞と細胞、細胞と細胞外基質の間の接着を阻害的に制御して、神経発達を正常に行うという機能性糖鎖分子であると認識されている。本研究では、ポリシアル酸が反接着作用だけではなく、積極的に脳に存在する分子と結合し、その機能を制御していると考え、ポリシアル酸が相互作用する分子として、BDNF(脳由来神経栄養因子)を中心に相互作用解析を行っている。 本年度はポリシアル酸と同様に脳内に存在する巨大な陰イオン性の多糖であるグリコサミノグリカン(GAG)とBDNFとの相互作用に焦点をあて、ポリシアル酸との相互作用を比較することでその機能的な役割分担を明らかにすることを目的として研究を行った。その結果コンドロイチンとヒアルロン酸以外のGAGがBDNF二量体と直接結合し、巨大複合体を形成することを明らかにした。NT-3も、同様の結合性を持つことが明らかになった。さらに、BDNFはGAGと複合体を形成した後にも、BDNF受容体であるTrkBやp75NTRへ移動できることがわかった。これらの結果は、GAGがBDNFや他の神経栄養因子群のリザーバーとなり、ポリシアル酸と同様に細胞表面上の局所的な濃度を調節している可能性を示している。
|