研究概要 |
Musashi1(Msi1)には、細胞の分化を促すnumb等の遺伝子産物の発現を翻訳レベルで抑制し、神経系等の幹細胞の全能性を維持する役割がある.Msi1は二つのRNA結合ドメイン(RBD:RBD1,RBD2)により標的mRNAに結合し、ポリA結合蛋白質(PABP)結合領域でPABPと結合する.我々は、この翻訳抑制複合体が形成される機構の解明を目指している.まずRBD1-RBD2連結体と、標的配列を含む長さの異なるRNAを用い、双方向の滴定実験を行った.滴定はNMRにより詳細に追跡し、X線小角散乱も併用した.これにより、相互作用に関わる残基を同定した.また、二つのRBDはRNAの有無に関わらず互いに固定されないことを明らかにした.次に、RBD1,RBD2各々に対して標的配列を断片化したRNAを滴定し、NMRにより追跡した.その結果、各々のRBDに対して3~5塩基の認識配列を同定することが出来た.さらに、RBD1とRNA(5塩基配列)の複合体について溶液構造を決定した.これまでに多くのRBDとRNAとの複合体に関する報告がある.しかし、Msi1 RBD1とRNAとの結合様式には、新たな特徴が見いだされた.例えば、βシート上のPheに塩基がスタックし、さらにその上にC末領域のPheがスタックした特殊な認識様式が存在した.また、βシートから外れたループのTrpに塩基がスタックすることで、認識する塩基の数が増していた.この構造から類推して、RBD2とRNAの認識機構についても知見を得ることが出来た.以上から、RBD1とRBD2は各々4及び3塩基を特異的に認識していること、また二つのRBDの相対位置は固定されないことが明らかとなった.他方、PABPが有する4つのRBDのうち、RBD1-RBD2がMsi1 PABP結合領域と結合することをプルダウンアッセイにより明らかにした,またPABP RBD1の立体構造を決定し、Msi1 PABP結合領域の結合部位をマップすることが出来た.このように、Msi1:PABP:RNA三者複合体の構造決定の礎を築いた.
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