SARSコロナウイルスのポリタンパク質のプロセシングにかかわる3CLプロテアーゼは、それ自身が内部に含まれるポリタンパク質の一部として発現し、自己プロセシングにより切り出されてくる。このプロテアーゼについて、その上流および下流にそれぞれ10残基の天然のポリタンパク上に存在する配列をともなって発現するようなプラスミドを作成した。これを、大腸菌の無細胞タンパク質合成系で生産することにより、自己プロセシング反応を起こさせ、天然型の完全長のプロテアーゼを作成することに成功した。これは従来用いられていたN末端にベクター由来の余分なアミノ酸残基が4残基付加されているもの(これも発現系を作成し、完全精製した)に比べると10倍以上の高い活性を有している。精製ならびに結晶化を行い、X線構造解析により結晶構造を決定することに成功した。このプロテアーゼは2つの同一のプロトマーの二量体構造をとっていて、結晶構造では2つのプロトマーは、構造上は完全に同等ではないが、活性中心付近の構造は共に活性型であった。さらに、C末端にプロ配列の一部10アミノ酸残基を有するプロ体でプロテアーゼ活性中心CysをAlaに置換したもの作成と、そのX線結晶構造解析も成功した。現在、これらの結果をもとに、このプロテアーゼの自己プロセシングのメカニズムについて検討中である。
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