本研究は、体内時計蛋白質の一つであるNPAS2による転写制御機構を明らかにすることを日的としている。NPAS2の立体構造を明らかにするため、当初の計画通りNMRと結晶構造解析を試みた。精製試料が多量体を形成しやすく、NMRスペクトルが著しく幅広化したため、満足な結果が得られず、結晶化にも成功しなかった。この間、NPAS2の相同蛋白質において、多量体の形成を阻害する変異が報告されたので、NPAS2に同様の変異を導入したが、残念ながら効果はなかった。しかし、この変異蛋白質を精製する過程において、精製した試料が、発現に用いた大腸菌に由来するDNAと結合していることがわかった。これが多量体の形成やDNA結合能が低い原因と考えられたので、精製法の再検討を行い、この問題を解決した。また、ラマン分光法を用いて局所構造の解析を行った。NPAS2は還元状態でBMAL1とヘテロ二量体を形成し、DNAと結合するが、COと結合すると解離する。そこで、還元状態でのNPAS2のヘムの構造について検討した。ヘムとその配位子であるヒスチジンの伸縮振動は、これまでは光励起数ナノ秒以内の短寿命でしか観測することができなかったが、精製度の向上により、定常的に観測することができるようになった。このモードは次年度以降に行うDNAとの結合能を観測する際のプローブとして使用することが期待できる。また、BMAL1の発現、精製にも取り組んだ。大腸菌で発現するように遺伝子配列を最適化し、BMAL1の発現を行った。この結果、十分な発現量が得られるようになったものの、可溶性が悪いため、発現蛋白質がほとんど不溶性画分に移行するため、十分な収量を得ることができないという問題点が現れた。
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