本研究の目標は、酸化還元及び一酸化炭素(CO)依存的に遺伝子の転写を制御するNPAS2/BMAL1の遺伝子制御機構を明らかにすると共にその応用を試みるものである。最終年度である本年度の目標は「転写因子として機能するNPAS2/BMAL1複合体の構造解析」であった。BMAL1は著しく発現量低いため、その調製に時間を要したが、前年までの研究において、かろうじて構造解析が可能な量を確保できるようになったため、結晶化及びNMRによる構造解析を試みた。しかし、蛋白質の安定性などの問題により、十分に解析可能なデータは得られなかった。そこで、複合体の形成、DNAとの結合を還元雰囲気下で観測可能な観測システムの開発を行った。既存の自作のラマン測定装置に顕微鏡を導入し、さらに集光系の調整を行い、顕微ラマン測定装置を作製した。さらに、複合体の形成、DNAとの結合の初期過程を観測するため、高速混合装置を作製した。これは、顕微観測可能なマイクロ流路チップにシリンジポンプと接続し、二液を高速で混合し、観測点から任意の位置で反応液を観測することにより、異なる反応時間で測定可能な時間分解ラマン測定装置である。さらに、この高速混合装置を前述の顕微ラマン測定装置に設置することで、より正確な時間分解能のラマンスペクトルの測定が可能となった。性能評価のため、ミオグロビンと過酸化水素反応を観測したところ、通常の手法では追跡できない高速な反応であり、また、副反応による蛍光により測定が阻害されてしまうが、本装置を用いることにより、Compound IIと呼ばれる短寿命の反応活性種に由来するバンドを観測することができた。この時間分解ラマン測定装置により、数十ミリ秒の時間領域の反応を観測できることがわかり、今後の反応解析に向け、重要な装置開発を行えた。
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