研究概要 |
GM3合成酵素(GM3S)欠損マウスはインスリンレセプターの恒常的な高リン酸化の状態を示すことが既に示されている(Yamashita T et al. PNAS,2003 100(6):3445-9.)。今回我々は、メタボリックシンドロームを誘発する高カロリー食を与えることで、摂食量、体重変化、血中グルコース量、グルコース感受性、インスリン感受性、病理組織像、血清値の変化、およびメタボリックシンドロームに関わる遺伝子群の発現変化を調べた。その結果、GM3合成酵素欠損マウスでは、摂食量、体重変化、血中グルコース量、グルコース感受性、インスリン感受性、病理組織像において、変化が観察された。一方、メタボリックシンドロームに関わる遺伝子群の観察では、主に炎症に関わるIL-6の発現の上昇が観察された。この原因としてT細胞の関与が示唆されたため、T細胞が主に分泌するサイトカインを調べた結果、IL-17,IFN-gammaの発現に差が観察された。脂肪産生およびグルコース代謝に関わる遺伝子群は解析中である。これらのことから、細胞膜の脂質成分の変化が免疫能に影響を及ぼしていることを示唆する結果である。また、これらのマウスから樹立した胚性繊維芽細胞(MEF)における細胞増殖能の亢進と脂肪細胞への分化実験の結果、脂肪の蓄積に有為な差が観察された。これら細胞を用いた実験において、LPS刺激下におけるサイトカインの発現量の増加が観察された。さらに、メタボリックシンドロームでは、中枢神経によるレプチン等のホルモンコントロールの重要性が指摘されている。そこで、GM3合成酵素欠損マウスにおける行動解析を行った結果、ある薬剤に対する感受性に差が観察された。さらに、レセプターの種類により感受性が異なることが明らかになった。また、脳の糖タンパク組成を調べた結果、糖脂質の欠損に呼応するように、ある種の糖タンパク質量の上昇と、本来発現が観察されない糖脂質が観察された。今後、糖脂質と脂肪細胞、神経系を中心に解析を行う予定である。
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