研究概要 |
本研究課題では、筋肉におけるタンパク質分解の新たな制御機構、制御因子の発見を念頭に、特にユビキチン-プロテアソーム系に注目して研究を行った。筋肉はタンパク質分解の盛んな組織であり、骨格筋はある種の疾病や神経切断、筋肉の不使用などにより急速に委縮する。研究代表者らはこれまでの研究により、培養化された筋管細胞において、筋分化因子の一つマイオジェニンが急速に分解され、そこにユビキチンリガーゼであるSCF複合体が関与する事を明らかにしている。SCFはSkp1,Cul1,F-boxタンパク質からなるが、Cul1は触媒活性をもち、F-boxタンパク質は標的タンパク質結合という標的特異性に関る部分で、Skp1はCul1とF-boxタンパク質を連結している。さらにTIP120BはCul1と結合し、それによってSCF複合体を解離させるというユビキチン化にとって負に働く因子である。以上のような背景を踏まえ、本年度の研究では以下のような成果が得られた。TIP120B遺伝子の遺伝子発現についても検討した。その結果、ヒトやマウスのいずれのTOP120B遺伝子においても、上流部分のMyoD結合配列が転写に正にかかわり、MyoD因子が実際に転写の上昇に関わることが示唆された。C2C12細胞の分化において、TIP120B、MyoD、マイオジェニンの遺伝子発現、タンパク質量が増加し、逆にDEXによる筋萎縮操作ではTIP120Bの遺伝子発現が下がり、MyoDでは遺伝子発現の変化は少ないもののタンパク質量の低下が見られた。マウスやヒトのTIP120BプロモーターがMyoDで活性化され、プロモーターには複数のMyoD結合配列が見出された。いくつかのMyoD結合配列に関しては、実際にMyoDが結合する事が確かめられ、結合と転写活性化の関連も示された。この現象がクロマチン上でも起こることがChIP解析で確かめられた。MyoDは細胞内では不安的なタンパク質であるが、興味ある事に、TIP120Bはその安定化に働いている事が示された。以上の結果より、TIP120BとMyoDの間には制御における正のフィードバックループが存在し、両者が協調して筋分化促進に関わる事が示唆された。
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