薬剤耐性菌による感染症の治療を目指し、従来の抗生物質と異なる標的・作用機構をもつ薬剤としてヒトミトコンドリアには存在しない呼吸酵素の阻害剤を同定するため、天然抗生物質ライブラリーのスクリーニングを行った。1)酢酸菌のシアン耐性キノール酸化酵素の分光学的および酵素学的性質を解明し、キノール結合部位阻害剤としてアンチマイシンA、グラミシジンS、LL-Z1272γ、オーラシンCおよびD、ピエリシジンAを同定した。2)緑膿菌の呼吸鎖電子伝達系酵素のスクリーニングから、病原体のコハク酸脱水素酵素のキノン結合部位に働く阻害剤としてシッカニンを同定した。3)結核菌のモデル系であるMycobacterium smegmatisでは、NADH脱水素酵素NDH-IIおよびリンゴ酸:キノン酸化還元酵素のキノン結合部位阻害剤としてポリミキシンBとE、ナナオマイシンAを同定した。新規抗生物質の標的候補でバクテリアに固有な呼吸酵素であるシトクロムbd型およびbo型キノール酸化酵素の反応中心の構造と働きを部位特異的変異体や物理化学的手法を利用して明らかにした。蛋白構造の面から新規抗生物質を同定するために呼吸鎖オキシダーゼの酸素還元部位に用いられるヘムOやAを供給する生合成酵素の発現・精製系を確立し、反応中心の構造を検討した。更に、ミトコンドリアの代謝系酵素のバインオインフォーマティクス解析から、マラリ原虫のATP合成酵素とコハク酸脱水素酵素の膜アンカーサブユニットを同定し、Cryptosporidiumミトコンドリアの種間多様性を明らかにした。本研究は天然抗生物質の迅速なマトリックススクリーニングや構造生物学的研究によって種特異的な細菌呼吸酵素阻害剤を同定できること、これらをリード化合物として新規の感染症薬を開発できる可能性を示した。
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