私達は、ゲノムを標的としないタンパク合成阻害や浸透圧といった非ゲノム損傷ストレスが、細胞周期制御因子、CDC25AやCdc25Bの分解を誘導し、細胞周期の停止・遅延を引き起こす現象を発見し、その制御機構の解析を行っている。これまでに、非ゲノム損傷ストレス下において、Cdc25AとCdc25Bはそれぞれ主にp38マップキナーゼ経路とJNK経路を介してリン酸化され、分解が誘導されることを明らかにした。本年度は、特にCdc25Bの分解機構について実験を行い、以下に示した知見を得た。 1、 Cdc25B分解に関わるリン酸化部位の同定 断片化したCdc25Bを基質としたin vitroリン酸化反応においてJNKがCdc25BのN末断片を強くリン酸化した。この断片内のJNKの基質となるSer-Pro/Thr-Pro配列をAla-Pro配列に変換した変異体を用い、101番目と103番目のSerがCdc25BのJNKによる分解に重要であることを明らかにした。また、これらのSer→Ala変異体は、タンパク合成阻害や浸透圧ストレス下においても、分解に抵抗性を示すことがわかった。 2、 リン酸化を介したCdc25B分解に関わるユビキチン化酵素E3の同定 培養細胞をもちいた共発現実験において、SCF-E3リガーゼに含まれるいくつかのF-ボックス蛋白のうち、β-TrCPがCdc25BのN末断片に結合することを発見した。そこで、Bimolecular fluorescence complementation (BiFC)法を利用したプローブを作成し、この二分子間の結合が、JNKの強発現や、タンパク合成阻害・浸透圧といった非ゲノム損傷ストレスにより促進されることを見出し、細胞ストレスの新しい検出法として特許を出願した。
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