研究概要 |
生体内の変性自己細胞や微生物は食細胞に選択的貪食を受け,生体恒常性が維持される。本研究は, 「貪食による精子形成支持や微生物排除の仕組み」と,「細菌が貪食殺菌装置に対抗する生き残り戦略」の解明を目指し,二年目は以下の成果を得た。 精巣セルトリ細胞が貪食依存に産生する精子形成支持因子の解析: 貪食依存にセルトリ細胞で発現亢進するカルボニルリダクターゼ1(CBR1)のセルトリ細胞コンディショナルノックアウトマウスを作成し,組み換え効率を調べるとほぼ100%近くであり改変動物の樹立と評価した。精子形成過程進行への寄与を,組織化学的解析と精巣上体の精子数で評価したところ,CBR1欠損は少なくとも正常環境下では精子形成に大きな影響を与えないとわかった。 黄色ブドウ球菌の哺乳類マクロファージによる細菌の殺菌回避を導く因子の同定 黄色ブドウ球菌菌株群の解析より,細胞壁成分の壁タイコ酸がTLR2経路抑制因子候補に挙げられ,今年度の遺伝学的及び生化学的解析によりその機構が判明した。TLR2リガンドである黄色ブドウ球菌リポプロティンのリガンド活性は壁タイコ酸により弱められ,これがマクロファージのTLR2経路を介するJNK経路活性化とこれに制御される活性酸素産生を抑制する。そのために,貪食された食細胞内で細菌が生き残ると考えられた。 ショウジョウバエ食細胞による黄色ブドウ球菌の貪食機構の解析 ショウジョウバエDraperが黄色ブドウ球菌の貪食受容体と見いだし,今年度は,黄色ブドウ球菌のDraperリガンドを,変異菌株ライブラリーを利用した遺伝学的解析と,細菌細胞壁成分の生化学的解析より見いだした。すなわち,細胞壁のリポタイコ酸がリガンドとしてDraperに直接結合し,食細胞内の低分子量G蛋白質を介して細菌を貪食した。さらに,本反応が細菌感染時にハエが生きるために必要な防御反応であると判明した。
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