bHLH型転写因子の機能抑制因子であるHLHタンパク質ファミリーIdは、腫瘍化した細胞やがん組織で発現が亢進し、増殖促進活性を有することから、がん遺伝子として認識されている。研究代表者はこれまで、ヒ素やカドミウムがId3タンパク質を細胞質に限局させることや、過酸化水素水がId1とId3タンパク質のホモ二量体~多量体形成を促進することを見い出し、前者では、Id3N末端領域の3つのシステイン残基にヒ素やカドミウムが直接結合すると推測され、後者では、すべてのシステイン残基を介したジスルフィド結合により、Id1及びId3のホモ二量体~多量体形成が促進することが示されている。IdはbHLH型転写因子のなかでもEタンパク質と強く結合することから、本年度はId/Eタンパク質ヘテロ二量体のレドックス制御について解析を行った。その結果、Id/Eタンパク質ヘテロ二量体間で、過酸化水素水によるジスルフィド結合の形成が確認され、ホモ二量体~多量体間のジスルフィド結合の場合と異なり、それぞれC末端領域のシステイン残基が重要であることが判明した。In vitroでは、IdとEタンパク質ともにHLH領域内のシステイン残基を介してジスルフィド結合を形成することが報告されており、細胞では別の反応が起こっていると考えられる。さらに、ホモ二量体~多量体はジスルフィド結合で安定化するのに対し、ヘテロ二量体間のジスルフィド結合は安定化に寄与しないこともわかった。また最近、酸化ストレスに応答するbHLH型転写因子以外の転写因子とIdが、過酸化水素水処理依存的に結合することが明らかになり、ストレス応答におけるIdの関与が示唆された。
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