鉄硫黄(Fe-S)タンパク質は、コファクターとしてFe-Sクラスターを持つタンパク質の総称である。Fe-Sクラスターの構造は[2Fe-2S]、[4Fe-4S]または[3Fe-4S]と単純だが、その生合成は実に複雑な生化学反応であり、細胞内では複数の成分から構成されるマシナリーがこれを担っている。本研究ではISCマシナリーの作動機構の解明を目的として、鍵となる中心成分、クラスター中間体のde novo形成部位として知られるIscUタンパク質の構造-機能相関について解析を進めた。 近年、われわれが決定したホロ型IscUの結晶構造からは、三量体の中に[2Fe-2S]クラスターが一つだけ含まれる、ユニークな非対称構造が明らかになった。また、この結晶構造に基づいて、Fe-Sクラスター近傍のアミノ酸を系統的にアラニンに置換することにより、機能に必須なチロシン、リジン、アスパラギン酸残基を特定した。そこで今年度は、これら3種類のアミノ酸をアラニン以外のすべてのアミノ酸に置換し、変異株の相補能を調べることで、それぞれの残基の役割を検討した。その結果、リジンとアスパラギン酸残基については、どのアミノ酸に置換してもIscUの機能が失われた。一方チロシン残基についは、トリプトファン、フェニルアラニン、ヒスチジンに置換した場合に、部分的にではあるが相補可能であり、芳香環の重要性が判明した。これらの知見とIscUの三量体構造を考え合わせると、鉄原子/Fe-Sクラスターとの相互作用には、IscUの三次/四次構造の大きな変化が関与するものと推定される。さらに、変異IscUの生化学的性質についても解析を進めた。
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