本研究では、哺乳類の脳、筋肉に存在するジペプチドであるカルノシンと、それを分解する酵素CNDP2について解析し、それらの生理的機能と恒常性維持に果たす役割を明らかにすることを目的として、以下の実験を行った。 1、CNDP2の発現とその調節 我々はこれまでに、CNDP2が中枢ヒスタミンニューロンの存在する視床下部結節乳頭核(TMN)において強く発現することを見出し、カルノシンがヒスチジンの供給源としてはたらくのではないかと考えた。そこで、その分布についてさらに解析を行い、TMNにおいてCNDP2がヒスチジンを合成する酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素と共存することを明らかにした。一方、概日リズムや絶食などによる変化は検出されず、ヒスタミンニューロンの関連性については更なる検討が必要と考えられた。 2、CNDP2の立体構造解析とLidドメインの機能 我々は、X線結晶構造解析により、CNDP2と阻害剤ベスタチンとの複合体の立体構造を決定した。その結果、サブユニット同士の相互作用が活性に必要であること、またそれがこの酵素の属するファミリーの金属ペプチダーゼに共通の特徴であること、そのほか、いろいろなユニークな特徴を持つことが明らかになった。現在さらに、阻害剤非存在下で結晶化条件のスクリーニングを行っている。 3、カルノシン、CNDP2と酸化ストレス CNDP2の活性はCysをNEMなどで修飾すると失われることから、酸化ストレスやNOにより活性調節を受けることが考えられた。しかし、結晶解析の結果からは、Cysが活性中心にないことが明らかになり、NEM等の効果が活性中心に対する直接的な作用ではないことが判明した。そこで、その活性調節の分子機構を明らかにするため、Cysを修飾した後に質量分析等を用いて解析し、反応性の高いCys残基を特定した。
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