細胞外からの刺激に伴う遺伝子の発現誘導は、必要な分子を新規に産生する極めて合理的な応答であり、生命の恒常性維持に必須の役割を果たしている。例えば、微生物感染等に応答した炎症性遺伝子の発現は、宿主の防御にとって極めて重要である。炎症性遺伝子の発現において中心的な役割を果たしているのが、活性誘導型の転写因子NF-κBである。 我々は、ノックアウトマウスを用いた解析などから、以前独自に同定した核内分子IκB-ζが一群のNF-KBの標的遺伝子の発現において必須の役割を果たしていることを明らかにしてきた。IκKB-ζの発現が炎症性刺激に伴ってNF-κBを介して誘導されることから、NF-κBとIκB-ζは、フィードフォワードループを形成して標的遺伝子の発現を調節しているものと考えられる。本研究では、炎症性刺激とは独立にIκB-ζを発現誘導する細胞株を構築し、標的遺伝子の発現におけるNF-κBとIκB-ζの役割の解明を試みた。その結果、1)標的遺伝子の発現におけるタンパク質の新規合成の必要性はIκB-ζの発現によって説明できること、2)NF-κBの活性化が実際に標的遺伝子の発現に必要であること、3)NF-κB p65サブユニットやC/EBPタンパク質が標的遺伝子の発現に関わっていることは以前から知られていたが、これらの転写因子が標的プロモーターへ結合するのにIκB-ζが必要であること、などを明らかにすることに成功した(Yamazaki et al J. Biol. Chem. (2008))。 最近、IκB-ζの標的遺伝子の一つであるLipocalin-2の発現が、グルココルチコイドの刺激によって誘導されることが他の研究グループから報告された。我々は、炎症性刺激とグルココルチコイドの共刺激によってLipocalin-2の相乗的な発現誘導が惹起されることを明らかにし、この応答におけるIκB-ζの役割と、この相乗効果を生じる分子機構を明らかにしている(投稿準備中)。
|