NF-κBは、多くの炎症性遺伝子の発現誘導に関わる転写因子であり、転写活性化ドメインを持つp65サブユニットとそれを欠くp50サブユニットからなるヘテロダイマーが主要な役割を果たす。筆者が以前同定したIκB-ζは、核内でp50と選択的に結合するNF-κBの調節因子である。昨年度、筆者は、IκB-ζが標的遺伝子のプロモーター領域のクロマチン構造を変換しp65を接近可能にする過程に必要であることを示した。今年度は、このクロマチン構造変換におけるIκB-ζとp50の役割を明らかにすることを目的に本研究課題に取り組んだ。 まず、p50マウスから骨髄由来マクロファージや胎児繊維芽細胞を調製し、これらをリポ多糖(LPS)で刺激した際の遺伝子発現を野生型マウスと比較した。その結果、検討したほとんどのIκB-ζ依存性遺伝子の発現がp50欠損細胞で障害されていた。IκB-ζとp50が共通の遺伝子を標的とすることは、これらが同一のステップに関与することを強く示唆している。また、最近我々は、IκB-ζ依存性遺伝子の一つであるLipocalin-2の発現は、LPSとデギサメサゾン(Dex)で同時に刺激すると相乗的に誘導されることを明らかにしている。p50の欠損細胞を用いた解析から、この相乗的なLipocalin-2の発現にもp50が必要であることが判明した。 クロマチン免疫沈降法(ChIP)による解析の結果、p65が刺激依存的に標的プロモーターに呼び込まれるのとは対照的に、未刺激の細胞内でもp50はすでに相当量プロモーターと結合していることが明らかになった。プロモーター上に存在しているp50に発現誘導されたIκB-ζが結合することによりクロマチンの構造変換が引き起こされるものと予想される。
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