以前我々は、ヒトメラノーマAKI細胞をなどのメラノーマ細胞において、腫瘍壊死因子(TNFα)刺激によるNFκB活性化機構にジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)αが関与することを明らかにした。本研究ではこのDGKα依存性NFκB活性化機構をさらに詳細に調べた。まず最初我々は、様々なプロテインキナーゼC(PKC)阻害剤が、DGKα依存性NFκB活性化にどのような影響を与えるかを検討した。ルシフェラーゼアッセイによりNFκB活性化への影響を定量した結果、このシグナル伝達系にはnovelまたはatypical PKCが関与することが示唆された。そこで我々は、PKCζに着目した。報告によればPKCζはホスファチジン酸(DGKαの活性産物)により活性化され、またNFκB活性化機構で重要な働きを示す。実際にDGKα依存性NFκB活性化は、PKCζの過剰発現およびsiRNAによるノックダウンによってそれぞれ増大および減弱され、PKCζの関与が強く示唆された。またNFκBのp65サブユニットは、そのSer311をPKCζがリン酸化することにより活性化されるが、TNFα刺激に応答したSer311リン酸化を調べたところ、PKCζのノックダウンによっても、あるいはDGKαのノックダウンによってもこのリン酸化が抑制された。以上の結果より、メラノーマにおけるシグナル伝達系、TNFα-DGKα-NFκBという経路の中にPKCζが含まれることが示唆された。これらの実験結果はメラノーマ治療の手がかりとなる意義ある内容といえる。特許申請のためのデータ収集を目的として、AKI細胞をヌードマウスに接種し形成された腫瘍に、DGKαのsiRNAとTNFαを同時に投与すると、コントロール投与系と比較して明らかに腫瘍の成長速度が減少するという結果が得られたことと合わせ、本研究の成果が期待される。
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